阿原屋

あばらや

『死亡通知書 暗黒者』周浩暉

f:id:exsol4544:20200816023424j:plain

 

◆感想

中国のとある省都のA市を舞台に、復讐の女神の名を冠す謎の連続殺人鬼「エウメニデス」と省都警察の熾烈な攻防を描く華文ミステリ。

2002年、一人のベテラン刑事が何者かに殺害された。事件が起きる前、この被害者の手元には「エウメニデス」による死亡通知書=殺人予告が届けられていた。

「エウメニデス」は死刑に処す対象をネット上の掲示板で市民から募集し、まるでゲームを楽しむように予告殺人を繰り返していく。

省都警察はこの連続予告殺人事件を担当する〈四一八〉専従班を結成し、さらなる犯行を食い止めるべく捜査に乗り出す。

主人公の羅飛(ルオ・フェイ)刑事はA市ではなく龍州市の所属だが、実は彼がまだ警察学校学生だった18年前——1984年にも発生していた「エウメニデス」の手による殺人事件の関係者だったため、〈四一八〉専従班に参加することとなった。

果たして〈四一八〉専従班は「エウメニデス」というシリアルキラーによる私刑を防ぐことができるのか……。

 

骨太な警察小説というよりは、漫画のような外連味のある展開が繰り広げられる作品。中国では圧倒的な人気を誇り、英米でも激賞されているらしいですが、個人的にはあまり楽しめなかったですね。

何が楽しくなかったって、最初から最後まで警察は犯人に翻弄されまくりなんですよ。ずっとやられっぱなしで、警察関係者の命さえ奪われているのに、本作の時点では一矢報いることさえできてない。情けねえ!

警察は始終、犯人の手のひらの上で踊らされたまま第一部は完となりました。

明確な敵役に対して、何一つ反撃さえできないまま物語が終わってしまったので、私としてはかなりストレスの残る読後感になりましたね。謎解きの意外性とかもそれほどでは……って感じ。

というか全三部作ってなんやねん。解説にしか書いてないやんけその情報。本作だけだと中途半端な終わり方でどうにも竜頭蛇尾というか羊頭狗肉というか。

 

また「エウメニデス」が殺した十数人の被害者達の中には、警察が過去に捜査して未解決だった強盗や強姦事件の容疑者も含まれているんですが、「エウメニデス」がどうやってそいつらを発見したのかがよくわからない。何で警察以上の捜査能力を持ってんの。

あと「エウメニデス」という存在は、18年前の警察学校時代に羅飛刑事の恋人だった孟芸(モン・ユン)が考えていた小説の構想だという事実が中盤くらいで主人公から語られるんですが、その事実を知っていたのは主人公と恋人と、そして主人公の親友のみ。

であれば、「エウメニデス」を名乗る殺人者あるいはその関係者足りえるのは上記の3人に限られるはずであり、そして主人公にはアリバイがあるため、残ったのは2人のうちどちらか……

そういうふうに連想するのは極めて当然だと思いますし、ゆえに「エウメニデス」の正体というのはかなり見え透いているのですが、切れ者と描写されている主人公がなかなかその結論に辿り着かないのがもどかしい。

読者であるこちらからしたら他にねえだろってくらい唯一無二の可能性だというのに。

時限爆弾を使った爆破事件なんかもありますけれど死体の身元を判別不能にして別人になりすますなんて定番中の定番だしねえ。もう少し捻りが欲しいですな。 

 

 良かった点としては、リーダビリティが高いところ。中国文化に精通していないと理解できないような部分というのはほとんどないため、そういう意味では安心して読めますね。

それから主人公が18年間抱えてきた恋人に対する苦悩が、過去の事件の真相が判明することで解消される描写はちょっと好みでしたね。本作で唯一救いがあったとすればあのシーンだけだったかな。

 

全三部作ということらしいので、本作だけですべてを評価するのは尚早かもしれません。しかし、続きが本当に出版されるかどうかもまだわからない。あまり日本で受けそうな印象はないのよね。

 

◆評価 ★★ 4点