『本格王 2020』本格ミステリ作家クラブ 選・編
◆各感想
結城真一郎——『惨者面談』
ネタそのものは本格ミステリを読み慣れた人ならとても既視感のあるもの。家庭教師という題材でこれをやったというのが評価されたのだろう。
意外性を捻出するために、かなりの偶然が重なってしまっているため、ややご都合主義的な感じがする点が気になったけれど、このアンソロジーの中では上位に入る。
東川篤哉——『アリバイのある容疑者たち』
全編通してどことなくアマチュアっぽい雰囲気が漂う。いや、「東川篤哉はいつもそんな感じじゃん?」って言われたらそうなんですが、普段にも増してアマチュアっぽい筆致だと感じられたのは、かなり都合のいい電車の設定のせいかしら。
伊吹亜門——『囚われ師光』
幕末という時代設定で『十三号独房の問題』をやるという趣向だけでも評価されそう。大きな驚きこそないが、手堅くまとまった一編。
福田和代——『効き目の遅い薬』
文体も設定も展開も何もかもが古臭い。実際、作者は50代の女性なのだけれど。中盤でオチがほぼ明かされたようなものなのに、そのあともダラダラと続く退屈な話でした。
中島京子——『ベンジャミン』
内容の是非はともかくこれは本格ミステリじゃねーだろ!!
この短編に本格要素を見出すのは無理がある。『本格王』というタイトルのアンソロジーに全然ふさわしくない。どういう理由で選ばれたのかが不思議である。
そもそも作者自身がミステリーを書いたつもりはないって言ってるやん。
櫛木理宇——『夜に落ちる』
幼稚園児なのに賢すぎる。そこまで頭が回るとは思えない。主人公の家庭環境と事件という一見無関係な双方を結びつける要素も、特に効果的とは思えなかった。つーかまた八百屋お七かよ!
大山誠一郎——『時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ』
よかった、この作家の作品が収録されていて。これがなかったら本当にクソッタレなアンソロジーになっていた。大山誠一郎の存在でかろうじて救われた。
相変わらずの職人芸さながらのアリバイ崩し。めちゃくちゃ凄いわけではないけれど、安定感のある内容で楽しめました。
◆総評
『本格王』という大仰なタイトルに恥じるアンソロジーでした。もっと謎と伏線と論理の妙味に溢れた短編はないんかい。それだけ短編ミステリのレベルが落ちているということなのだろうか。とにかく、選定を行った作家と評論家には二度と関わっていただきたくないですね。白眉はもちろん大山誠一郎で。
◆評価:3 ★☆