阿原屋

あばらや

『詐欺師は天使の顔をして』斜線堂有紀

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◆感想

霊能力者の子規冴昼はそのカリスマ性と神秘的な霊媒能力で一世を風靡していた。もちろん、テレビ番組などで彼が創出する奇跡はすべて演出で、そのお膳立てはマネージャーの呉塚要が担当していた。二人は唯一無二のパートナーとして、世間を相手に霊能力を信じ込ませる詐欺行為を働いていた。

とはいえ、彼らは罪もない人々を騙して荒稼ぎをしたりするわけではなく、その目的は名誉や名声といったようなものにあるので、詐欺師とは言っても犯罪行為に手を染めているわけではないようだ。

しかし、人気の絶頂期にあった子規冴昼は突然、何の前触れもなく失踪し世間から姿を消した。相棒を失い無気力な日々を送っていた呉塚要は、冴昼の失踪から三年が過ぎたある日、不思議な電話ボックスを通じて異世界の街に辿り着いた。その街の歴史や文化などは要が暮らしていた日本とほとんど同じだが、一つだけ決定的に違う点があった。

その世界に生きるすべての住人は、超能力が使えるのだった。

そして、失踪したと思われていた冴昼は、その世界で殺人の容疑をかけられているのだった。相棒の冤罪を晴らすため、要は調査に乗り出す。

 

斜線堂有紀

妙ちきりんな名前である(えー

何か元ネタがあるのだろうか。初読みの作家です。

ライトなSF設定を用いた特殊設定ミステリといった趣の本作。異世界といっても、本作で登場する二つの異世界の歴史や文化は現代日本とそう変わらないので、未知なる異国を旅する情緒みたいなものはない。

収録されているのは二編で、それぞれで異なった特殊設定が用意されています。正直、ちょっと物足りないのは否めないですね。もう一つくらいはエピソードを追加してさらに変わった異世界での物語が欲しかった。

 

設定的にはもっと派手に面白く展開させられるんじゃないかなあと思うんですが、実際に描かれている事件は結構こじんまりとしてて、地味な感じ。

設定面の瑕疵をつついたりするのは野暮な話なんだろでしょう。よくよく考えてみれば「それはおかしいだろ……」て突っ込みたくなる部分がチラホラと存在するんですけれど、これはこういう設定だと認識して、特殊な状況下でのミステリを楽しむのが正しい読み方なんでしょう。

でも他人の粗探しって楽しいんだよなー!(えー

ごめんな、このおっさんは性根が曲がってるから、ケチをつけずにはいられないんや……。許してくれな。

 

『第一話 超能力者の街』

最初に訪れた異世界は、住民全員が超能力を使用できるという舞台設定。手を触れずに物体を動かすことのできる能力——いわゆるサイコキネシスというやつである。多少の個人差はあれど、一般的な成人であれば個人の腕力と同等の力で物体を動かすことができ、能力の射程範囲は半径五十メートルほどだそうな。

まず私が思ったのは「いやサイコキネシスの能力範囲が半径五十メートルってやばくね!?犯罪し放題やん!」ということでしたね。

 

どうもこの超能力、使用するのにまったくリスクが存在せず、予備動作もなしにノーモーションで発動できるようなのだ。そんな能力が法的な規制もされずに誰でも無条件に無制限に半径五十メートル先まで適用できるとなると、窃盗やら性犯罪やらが多発して、この街の犯罪率はやばいことになってそう。気に入らない奴がいれば、離れた位置から相手に気づかれないようにぶん殴れる。数人で協力すれば人間を宙に浮かして運ぶのも簡単そうですし、誘拐も楽勝だ。

 

そういった治安面を心配しつつ、さてそんな異世界で発生した殺人事件ですが、謎解きの手つきはあまり鮮やかとは言い難いですね。特に疑問に感じたのは犯人が犯行後に取った行動でして、どうしてグランドピアノの鍵を凶器や被害者の鞄と一緒に川へ捨てなかったのかという点が気になりました。

 

やはりサイコキネシスという能力の自由度がかなり高いせいで、様々な可能性が想像できてしまい、推理の論理性が損なわれてしまっている感じは否めない。本格ミステリ的な展開にこだわるならもう少し限定的なルールに設定すべきだったし、「本格なんか知ったこっちゃねえ!」って姿勢ならもっと派手で華のある内容にすべきだったんじゃないかと思いましたね。


『第2話 死者の蘇る街』

題名通り、舞台は死んだ人間が蘇る異世界です。

この世界には『戻り橋』と呼ばれている場所が世界各所にあり、一度死んでしまった人間はその『戻り橋』を通って生者の住む世界に帰ってくることが可能なのである。生者が死んでしまった場合、生きていた頃の肉体は普通に死体として何らかのしかるべき処理を施されるようだ。(そのあたりは詳しく描写されていない)

つまり『戻り橋』を通ってやって来る者は実体を伴った幽霊みたいな存在であり、生きている人間と実体化した幽霊が共存する街が第2話の舞台となっている。

ちょっと説明がわかりづらいかな? まあ気になったら自分の目で本を読んで確かめてください(えー

 

 この第2話も設定面でいろいろと疑問符が浮かぶ部分があります。すべて指摘しようとすると長文になってしんどい予感がするのでやめておきますが(えー

ただまあ、死者の蘇りという巨大なホラを吹こうとしているわけなんですから、その大ボラを成立させるためには、予想される突っ込みどころを可能な限り潰しておいて、物語や設定の齟齬を生まないようにすることが必要だと思います。

 

ミステリ的にはなかなか面白いことをやっています。やはり論理には甘いところが目立つけれど、着目すべきは特殊な状況下ならではのワイダニットか。それから殺された被害者が自分の死体を始末するシチュエーションなんかも趣深い。犯人が毒をどこから入手したのかという点は少し気になりましたが。

 

先述したように、中編程度の長さとはいえ収録されているのが二編だけではいささか物足りない。

もし続編があるなら読んでみたい気もするので、作者と出版社はなんとかしてください(えー

 

◆評価 6点 ★★★