阿原屋

あばらや

『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ

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◆感想

資産家の老婦人が葬儀社を訪れ、自らの葬儀の手配を済ませたまさにその日のうちに、彼女が何者かに殺害されてしまうという事件が物語の起点となっている。天才肌だが偏屈な性格であり、今はロンドン警視庁の顧問をしている元刑事のホーソーン(探偵役)は、この老婦人が殺された事件を捜査する自分を本にして書かないかと作家のアンソニー(ワトソン役)にほとんど押し売りのような形で話を持ちかける。

本作はシャーロック・ホームズ譚のような体裁で書かれた小説で、作者自身がワトソン役を務めるという凝った趣向のミステリである。シリーズ化されており、このコンビが活躍する二作目『その裁きは死』が今月、日本でも翻訳されて出版されたばかりだ。

二作目が出るまでに読めばいいや、まだまだ発売までには時間がある、などと余裕をぶっこいていたら……

案の定、間に合いませんでした(えー

やはり新刊を積んでおくのはなるべく避けないとな……。

 

さて、まだ解決してもいない事件を強引に執筆させようとするホーソーンと、嫌々ながらも振り回され、しかしおいしい話は逃したくない二律背反に苦しむアンソニーの、決して円満とは言えないコメディタッチなやり取りはなかなかユニーク。

ホーソーンの毒舌を不快に感じる読者もいるようですが、個人的には全然気にならなかった。まあ、ホーソーンがゲイに対する嫌悪感を剥き出しにした発言をしていたので、そのあたり本国における読者からの反感を買うような気もしましたが、どうなんでしょうね。

総じて正統派な本格ミステリとして本作は楽しめました。あっと驚くような大業こそ使われていませんが、フェアに敷かれた伏線と、それらを解決編で回収する手際の良さ。八百屋お七を彷彿とさせるような犯人の動機。実名で登場するスティーヴン・スピルバーグ監督とのやり取りなど、出版界や映画界の虚実入り乱れたエピソードも面白い。

ただ一つ、本作に欠点があるとすれば……長い!!(えー

創元推理文庫で約470ページって、この内容でこの分量は多すぎやしませんかね!?

本作の世評はかなり高くて、ネットで感想を漁ってみても概ね評判はいいんですが、分量の多さについて言及している人はほとんど見当たらないのが不思議でしょうがない。

登場人物たちがどいつも割と饒舌なのが原因でしょうかね。情報量を増やして、真相を見えづらくしようとする作者の魂胆もあるのかもしれませんが。

もっとスッキリした構成にしてくれれば、もう少し高い点数をつけれたかなあ。

 

◆評価 ★★★  6