『エラリー・クイーンの新冒険【新訳版】』エラリー・クイーン
◆各感想
『神の灯』
傑作の呼び声も高い名中編。
荒野に建つ巨大な屋敷が一晩のうちに忽然と消失してしまうという大がかりなトリックを扱っており、インパクトのあるその屋敷消失ばかりが目立つけれど、実は他にも作中で用いられているトリックがある。その二つの組み合わせがシナジーを生み、神秘的な謎と論理的な解決を高水準なものに至らしめている(シナジーの使い方がこれで合ってるかは自信がない)。
この中編を好きな人は多そう。
『宝探しの冒険』
断崖の岩棚に三方を囲まれた屋敷の中で、真珠のネックレスが何者かに盗難された。犯人は屋敷にいる招待客の中にいると推定されるが、敷地内を綿密に捜索してもネックレスは見つからない。果たして犯人はネックレスをどこに隠したのか?
隠し場所は早々に目星が付くかもしれないけれど、犯人を炙り出すための宝探しゲームの存在が話をユニークなものにしている。
『がらんどう竜の冒険』
日本人の老紳士が暮らす屋敷で働く看護師が、何者かに頭を殴打されて気絶した。翌日、老紳士は屋敷から姿を消しており、現場からは竜の模様が彫刻されたドアストッパーがなくなっていた。そのドアストッパーは天井の滑石を用いて作られており、その中は空洞で五万ドルの現金が入っていたということだが……。
犯人の言動の中にある矛盾を見極め、実際に起きた出来事を推理するエラリーの手際が見所です。
『暗黒の家の冒険』
遊園地にあるアトラクション「暗黒の家」の中で殺人事件が発生。一切の光源が存在しない暗闇の空間で、被害者は背中に四発もの銃弾を受けて射殺されていた。被害者が死亡した際、同じく「暗黒の家」の中に入っていた客の中に犯人はいると思われるが……。
これは比較的犯人がわかりやすい話ですね。
事件そのものよりも、エラリーとジューナの微笑ましいデートの様子のほうが楽しい。男同士で仲良いですな。
『血をふく肖像画の冒険』
先祖の肖像画が血をふくという言い伝えのある屋敷に滞在することになったエラリー。ある夜、でたらめだと思われていた言い伝えをなぞられるかのように、肖像画には本物の血がついていた。
物語の背景がよくわからん!(えー
作中のエラリーも言うように、非論理的で人間的な話。
『人間が犬を噛む』
野球場で起きた毒死事件。死んだ男に対して毒を盛る手段と機会があったのは誰か。
喚いたり叫んだり、野球観戦に来てかつてないほどテンションの高いエラリーが見られます。試合の続きを観るために、急いで事件を解決しようと奮闘する様子はクスッと笑えますな。
『大穴』
競馬を題材にしたシナリオを依頼されたエラリーは、ポーラ・パリスからジョン・スコット老人を紹介された。スコットの牧場の競走馬であるデンジャーは、次に開催されるハンディキャップレースの有力候補だったが、出走直前、銃撃を受けてレースの棄権を余儀なくされる。銃を撃ったその人物が、スコット老人の娘との交際を禁じられたハンク・ホリデーだったのをエラリーとポーラは目撃したが……・
ちょっと無理のある計画のような気がする。トリックの切れも今一つか。
『正気に返る』
ボクシングの試合観戦に出かけたエラリーとポーラ。試合終了後、敗れた選手が殺害されて車の中で死体となっているのが発見された。たまたま隣に駐車してあったエラリーの車からは、車内に置いてあった外套が盗まれていた。殺人犯による盗難だと思われるが、何故そんなことをしたのか。
発想は同著者の某長編と似ていますね。外套を持ち去った理由さえわかれば、自ずと犯人は容疑者は絞られます。これも結構わかりやすい。
『トロイの木馬』
フットボールの試合が始まる直前に、宝石の盗難事件が起きる。すべてのありそうな隠し場所を探しても宝石は見つからない。犯人はどこに宝石を隠し、またどのようにして回収するつもりなのか。
トリックと呼べるほどのものは弄されてない小粒な一編。
しかし、その隠し場所はどうなんでしょう。音とかしませんかね。
◆総評
新訳版です。旧訳版で既読ですが、エラリー・クイーンは敬愛している作家なので購入しないわけにはいかないのです。
何と言っても特筆すべきは「神の灯」ですかね。推理小説の歴史を知るという意味でも、この中編を読むために本書を購入する価値はあると思います。本格ミステリとしての全体的なクオリティで言えば「エラリー・クイーンの冒険」のほうが高水準にまとまっているかな。
◆評価:★★★☆ 7点